ファーストコンタクト⑥
子守唄を歌いたいと思っても、何一つ思い浮かびませんでした。
そういえば私は子守唄を一曲も知りませんでした。
それで子守唄のイメージに一番近くて自分が歌える歌を選んで
できるだけ小さな声で歌いました。
一通り葬儀が終わってもう皆が会場を後にしようとしていた時、父がこちらに向かって歩いてきました。
父の肩や頭のあたりからゆらゆらと、湯気のようなエネルギーが立ち昇っていました。父は顔を真っ赤にして震えていました。
そして私に聞きました。
「歌っていたのか?」
怒りに震えて声を出すのがやっと、といった響きでした。
尾てい骨から冷たいものがワーッと背骨を駆け上がっていくのが感じられました。
そんな様子の父を見たのは初めてでした。
普段は温厚でバランスを取るタイプの父がそこまで怒りをあらわにしているのを見たことがありませんでした。
でも実際にその時の父の顔に私が見たものは、怒りよりも恥でした。
それは娘の行動を強く強く恥じている父親の顔でした。
私は何も言えませんでした。
たぶん参列者の誰かが、私が歌っているのを見て父に(私に直接ではなく父に)お叱りの言葉を言ったのでしょう。
きっとその参列者も、そして父も、突然亡くなった叔父の葬儀で私が呑気に鼻歌を歌っていたと解釈したのだろうと思います。突然に兄を失った父からすると、兄に対するとんでもない冒涜行為と感じたことでしょう。
・・・・・・・・・
私は10年近くも前のそんな出来事を、ホスピスの事務所で思い出していたのです。
(続く)
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